もう夜だと言うのに、生ぬるい風が肌に纏わりつく。等間隔に並んだ街灯は、白っぽい明かりで道をなぞるように照らしていた。
「危ないよ」
彼は私の肩を抱き寄せ、歩道の壁際に寄せた。
「溶けるよ」
片手に持ったアイスが、じんわりと汗をかき始めている。彼の手の中にあるアイスは、もう半分ほどになっていて、コーンの姿しか確認できなかった。
「速いよ」
「だって溶けちゃうじゃん」
「ゆっくり食べなよ」
「だから溶けちゃうじゃん」
笑う横顔を眺める。彼は食事をする時も速い。歩くのも速い。喋るのだって速い。だから私はいつも置いて行かれないように彼に付いて行く。食べることも、食べることも、話すことも、気持ちも。

後ろから白い光が近づいてくる。低く振動させた音が、夜道でははっきりと聞こえた。持っていたアイスを壁側に持ち替えると、列になるように彼の前へ移動した。
 明るすぎるライトが二人を照らして、ぼやけた影を鮮明にうつす。車の移動に合わせて影が動いて、私たちの後ろに移動した。遠ざかる音と、街灯に照らされた曖昧な影。
 ふと歩くスピードを緩める。背中から「歩きづらい」と文句を受けながら、彼との距離を縮めた。
 それぞれの影が、私の歩みに合わせて重なり、そうして一人になった。それは君の中に私が溶けたみたいに、それは私の中の君が溢れたみたいに。それじゃまるで私の方が、と思い、右肘で彼の鳩尾を狙った。鈍く声を上げる彼に、振り返ってあっかんベーをお返しする。眉間に皺を寄せ戸惑う彼を見ていたら、あまりにもおかしくて声を出して笑った。
「今はこれで許してあげる」
「何の話?」
「んー内緒」