月夜の約束

~第九章~
 扉を開けると霧がかった景色が一面に広がっていた。ついさっきまですぐ隣にいたはずの三人の姿が見えない。
「美咲ー!しずくー!斎藤ー!」
 呼びかけるも返事がない。歩きながら探していると、小さな少年らしき人影が見えた。少年がこっちに歩いてくる。
「・・・まってたよ、沙耶香。」
「⁉だ、だれ・・・。なんで私の名前知ってんだよ。」
「なにを言っているの?私は全知全能の神、沙耶香が探してた『月の子』、だよ。」
「え、こんな幼い子が・・・。」
「失礼な!僕は沙耶香たちが産まれるずっと前から地球にいるんだよ。」
「そんなことより月の子、みんなはどこにいった?」
「それなら安心して。二人とも、お家でぐっすり眠っているから。」
「どういうこと?さっきまでここに居たんだよ?」
「簡単だよ。だって僕、神だもん。二人の脳から記憶を削除して、瞬間移動で送り届けたんだ。」
「記憶を削除って・・・。もしかして私のことも忘れたの?前の生活に逆戻り・・・。」
「んー、それはちょっと違うかなぁ。「僕」に関する記憶は削除させてもらったけど、沙耶香のことは記憶に残ってるはずだよ?君たち三人の絆にはまったく手を加えてないからね。」
「え、でも・・・」
「大丈夫、そこは安心して。沙耶香は本当に二人のこと好きなんだねー。」
「別にそういうわけじゃ・・・。」
「僕も大好き。ひたむきに突き進める子たちは見ていて気持ちがいいもんね。」
「・・・ていうかさっきからなんでずっと二人って言ってるの?私が一緒にいたのは三人だよ。斎藤と美咲と・・・。」
「悲しいなぁ。やっぱり気が付いてないんだねぇ。これならわかるかな?」
再び霧に包まれ、少年はみるみる大きくなっていく。
「⁉し、しずく?ど、どうしてここに・・・。」
「私が『月の子』、だよ?沙耶香・・・。」
「そ、そんなわけ・・・。」
頭が追い付かない。
「その様子、信じてないでしょ(笑)。そりゃそうだよねー。いきなり私が現れた上にキャラも正反対(笑)。んー、じゃあさ、よく考えてみてよ。なんでここまで来れたと思う?」
「それは斎藤がピッキングしてくれたからで・・・。」
「普通、あんな簡単に鍵は開かないよ?誰かが手助けでもしない限りね。よく考えてみてよ。あの時春樹君に針金を渡したのは誰だっけっかなー?」
「・・・し、しずく・・・。」
「ピンポーン!あのヘアピンに神の力を宿しておいたんだー。僕的にもあそこで引き返されたらつまんないしねー。」
「じゃあ、前に話していた夢の話は?あれも全部嘘だったの⁉」
「嘘っていうかー、沙耶香の話をそのまま話しただけだよ?だって僕、夢とかないもん。全部叶えられちゃうからねー。」
「そ、そんな・・・。」
「ゴメンネー。その代わり、いつもなら僕が楽しめること一つを交換条件として提示するんだけどさー、もう既にたくさん楽しませてもらったから、沙耶香の望み?叶えてあげる!」
「え?」
「もしかして頭から抜けちゃってた?僕に会いに来たのはー、夢を叶えるためでしょ?」
 確かに私は自分の夢のために周りを巻き込んでここまで来た。でも、本当にそれだけなのか。私は自分の夢以外何も求めるものはないのか・・・。いや、そんなことはない。三人と過ごしてきて、大切なものを手に入れた。「友情なんて、学校なんて馬鹿らしい。」なんて考えはもうとっくになくなった。私はこれからもみんなと一緒にバカ言い合いたい。
「ほら、はやく女優になりたいって・・・」
「しずく。私、気づいたんだ。夢なんかよりも今が大切だって。」
「うん?」
「だから、さ。私はこれからも四人でいたい。美咲、斎藤、しずくと一緒にこれからも・・・。これが今の私の望み。」
「えっとぉ・・・。話、聞いてた?僕は神なの。ここまでたどり着いた時点で君たちの脳(デイバス)からその、記憶を削除しないといけないの。実際、もう二人の分は済んでるしね。意味、わかるでしょ?」
「でも、私の望み、叶えてくれるんでしょ?」
「だからぁ。・・・いつからそんなに往生際が悪くなったの?」
「三人に出会ってから。」
 しずくたちが私をここまで変えてくれた。今の私は特段嫌いじゃない。それなのに、しずくが居なくなったら何の意味もない。お調子者のくせにいざとなったら頼りになる斎藤、見た目派手だけど実は頭が良くて仲間想いの美咲、だれよりも優しくて、なんでも受け止めてくれたしずく、三人と出会えたから今がある。

   ———そんなみんなが大好きだ———

「・・・神なんだから、私の想い、伝わっているでしょ?」
「・・・ずるいよ沙耶香。ぼくの負けだよ・・・。」
「ほんとに⁉・・・よっしゃー!」
「最近本当に春樹君に似てきたよね。あんなにクールだったのに(笑)」
「⁉いつものしずくだ、しずくが返ってきた!」
「大げさだよ。・・・もう一度聞くけど、本当にその願いでいいんだね?」
「何度も言うけどそれがいいの。」
 私たち神の掟。それは人間に必要以上に干渉しないこと。掟を破ればそれ相応の罰があるかもしれない。だけど・・・
「わかった。・・・わたしも後悔ないし、いいよ。その願い叶えてあげる!」