白猫さんは甘党男子

 あの人が去って行った後、私は追いかけることもできずに放心していた。それが落ち着いた頃には、あの人はもうどこにもいなかった。

「やばい、名前聞くの忘れてた!!」
 
 さっきは怖すぎて、お礼すら言えなかった。だからせめてもう一度、あの人に会って直接お礼が言いたい。さっきのナンパ男に見つからないように、人気のない場所から探した。けれどなかなか見つけられず、気づけば五限目の終わりを知らせるチャイムが鳴った。

 授業を終えた人たちが続々と教室から出てくる。もしかしたらこの中に、いるのかも知れない。

「そこ邪魔、どけよ」

 低い声がして、背中が一気に冷たくなる。

「すみません、すぐ避けます.....」

 俯いていた私は顔を上げた。

 そこには長い金髪の人が立っていた。声を聞かなければ、女性と間違えてしまいそうだ。制服だって着崩しているはずなのに、モデルさんのような体つきのおかげでとてもオシャレに見える。

 後ろ姿だけでも目を引いていたけれど、正面から見た姿にも目を奪われてしまう。

「綺麗.....」

「は?出られないんだけど、早くどいて」

 冷たい声でその人は言う。それが少し怖かったけれど、この機会を逃したら次会うまでにどのくらい時間が空くかわからない。

「あの、お昼休みはありがとうございました.....」

 私の中では精一杯大きな声でお礼を伝えた。それでも、その人の冷たい表情は変わらない。

「は?いいから早くどけって。意味わかんな」

 私はサッと通れるようにスペースを空ける。その人はこちらに見向きもせず教室から出ていった。その人のリュックについている白猫のストラップがゆらゆらと揺れていた。