白猫さんは甘党男子

「トップは俺だァァァ!!!」
 

「まずいかもな.....」

 私は静かに勉強したかっただけなのに、教室の前で行われている乱闘が徐々に激しくなってきた。もうここも危ないかもしれない。かと言って、反対側の窓から外に出たところで血の気の多い人たちはうじゃうじゃいるわけで......。
 喧嘩でトップを獲ることが全てのこの場所で、私は猫に怯えるネズミのようにあちこち逃げ回る生活を続けている。四月に入学してすぐにこの生活が始まったから、もう半年くらいにはなっているはずだ。
 
 人気のない場所を探しつつ、逃げる。どこに逃げるなんて、わからない。

「わっ、!」

 逃げている途中誰かに強く手を引っ張られた。叫びたいのに、喉に何か張りついて上手く声が出せない。

「可愛いね、俺とちょっとお話ししようよ」
 
 にこやかに笑うその人は、ニタリ。という表現がピッタリな笑顔を私に向けて、腕を掴んできた。

 殴られる。そう確信してしまうと、体を何かに縛られたように動けなくなって.....心臓が嫌な脈の打ち方をする。

「や、いたい.....」
 
 やっとの思いで出た声も震えている。精一杯もがいても全く掴まれた腕は解けない。喧嘩慣れしていると、力ってこうも強くなるものなのか?喧嘩のためにトレーニングしたりしているんだろうか。いや、そもそも性別が違えば出せる力も違うのか。

「いや、いやですっ、、!」
 
 ここで力負けしたら、殴られたり蹴られたりするだけではきっと終わらない。私は殴られた先を想像してしまって、冷や汗が止まらなかった。

「なにしてんの、ナンパ?」
 
 少し後ろの方から声がして、私の腕を掴む力が緩む。その隙に、私は相手から離れた。

「この子、俺のツレだからあんま虐めないでね」
 
 そう言ってその人は、私と相手の間に入る。声を聞かなければ女性と勘違いしてしまいそうなほどに綺麗な長い金髪に目を奪われる。

「早く失せろよ」

 拳や蹴りを使わずに、冷たく相手に言い放つ。私の腕を掴んでいた相手は『覚えてろよ』と吐き捨てて去って行った。

「あ、あの.......」

「何ぼーっとしてんの、行くならさっさとしな。それから、自分の守り方くらいは覚えなよ。」

 そう言って、私を助けてくれたその人は別の場所に向かって歩いて行った。

「何あの人......」

 このときの私はまだ知らなかった。この人との出会いが、私の全てをひっくり返すような出来事に繋がっていくなんて。