『ごめん、別れよう』
もう何度脳内で繰り返したかもわからないその言葉を、無意識にまた再生する。
伏し目がちな瞼に重なって揺れる深海のような黒髪と、信じたくない言葉を紡ぐ唇が、どうしようもないくらい脳裏に焼き付いている。
大好きな人が自分に背を向けていく光景を思い浮かべ、また嗚咽のように咳き込んだ。
自然と視界に入る足元はふらふらと重心が定まらず、少しでも速度を上げたらすぐにもつれてしまいそうな程。
自分のその足がどこに向かっているのか、自分でももうわからなかった。
一向に枯れることのない涙を放ったまま、弱々しく洟をすすって強引に唾を飲み込んだ。
女の子として見れなくなった。
好きだからこそ笑顔で叶えられた我儘も、叶えられなくなった。
放課後の校舎裏という、少女漫画なんかでよく見るような場所で告げられたのは、それとは真逆のような言葉だった。
勿論すぐになんて飲み込めるはずがなかった。
本当は、感情のままに言い返したかった。
私はまだ旭陽が好きだって。
どれだけ月日が経っても倦怠期がきても全部乗り越えてきた。
私達は、ずっとこのまま一緒にいるんだと思ってた。
旭陽もそうだと思ってたって。
そうだと、思いたかったのに。
心春のせいじゃないからね。
苦しそうに笑う旭陽の顔を見てしまったから、私は何も言えずにただ頷くしかなかった。

