「いや、有朱ちゃんがはじめての彼氏を連れてきてる話は美智さんから聞いてたけど。まさかそれがあのときの少年だなんて」
流れで家に上がったるいくんはローテーブルに用意された麦茶に手をつけられずに、がちがちに固まっている。
「因果だね」
「……いや、オレの十年ものの片思いに、ありすが答えてくれただけっていうか」
「そういうのを因果っていうんだ」
お義父さんは、【雷光】はわたしたちの真向かいに座り、順番にわたしたちを見つめた。
「大きくなったなあ、二人とも。僕が年取っただけか。はは」
「あの、【雷光】さん。オレ、貴方に憧れて清音に来ました。ありすと出会えたのも……今こうしてお付き合いできているのも、貴方のおかげです」
お義父さんは目を細めてそれを聞いていた。そして、
「それは君の出した結果だ。僕のおかげではないよ。確かに君は……あのときの俺の行動に感化されたかもしれないけれど。ここまで来たのは君だ。俺、……僕の背中を追うと決めたのも君だ。そして、……有朱ちゃんを愛しつづけたのも、君だ」
「だ、だけど」
「間違えるな、少年。君のパワーと思いを侮るな。種を君にあげたのは僕かもしれないが、水を遣ったのは君だ」
お義父さんは微笑んだ。
「あの頃僕は二十歳になった若造でね。つるんでいた連中が結婚だの恋愛だのにうつつを抜かし始めて暇だった。暇だったから、少年、君が必死に有朱ちゃんを助けようとしているのを見つけて、これ幸いと助太刀したまでだ。僕はただ暇だったんだ。それに、君があんなに必死じゃなかったら、助けに入ろうとも思わなかったかもね」
「……」
るいくんは絶句していた。憧れの【雷光】とはほど遠かったからかもしれない。
わたしはわたしで、ようやくお義父さんの「底」に触れたような気がして、少しほっとしていた。お義父さんは誰から見ても完璧で優しくて非の打ち所がないひとだったから、人間らしい一面を見ることができて、正直……ほっとした。
この人も人間なんだ、って。天使とか神様とかじゃないんだって。わたしはようやく、このひとのことを、わかり始めることができたような気がする。
るいくんから『決めたよ』とメッセージが来たのはその夜だった。
「何を決めたの?」
『なあなあになってる、清音のトップのこと、はっきりさせる』
返信を打つ前に、続きが送られてくる。
『俺が清音のトップに成る。そんで【ヤンキー道】を広める』
「うん。……応援する」
『そんで、ありすはオレの彼女だって宣言する』
「……本気?」
『ほんき』
本気らしい。
わたしは書きかけの文章題を放り出して、スマホを手にベッドに寝転がる。
「るいくん、本当にわたしのこと好きすぎ」
『好きだから仕方ない』
「そんなるいくんだから好き」
『オレも好きだよ』
わたしはスマホを胸の上において、ぐっと伸びをした。文化祭まであと一週間。
この一週間がどれほど怒濤かを知らずに、わたしはつかの間の幸福に浸っていた。
流れで家に上がったるいくんはローテーブルに用意された麦茶に手をつけられずに、がちがちに固まっている。
「因果だね」
「……いや、オレの十年ものの片思いに、ありすが答えてくれただけっていうか」
「そういうのを因果っていうんだ」
お義父さんは、【雷光】はわたしたちの真向かいに座り、順番にわたしたちを見つめた。
「大きくなったなあ、二人とも。僕が年取っただけか。はは」
「あの、【雷光】さん。オレ、貴方に憧れて清音に来ました。ありすと出会えたのも……今こうしてお付き合いできているのも、貴方のおかげです」
お義父さんは目を細めてそれを聞いていた。そして、
「それは君の出した結果だ。僕のおかげではないよ。確かに君は……あのときの俺の行動に感化されたかもしれないけれど。ここまで来たのは君だ。俺、……僕の背中を追うと決めたのも君だ。そして、……有朱ちゃんを愛しつづけたのも、君だ」
「だ、だけど」
「間違えるな、少年。君のパワーと思いを侮るな。種を君にあげたのは僕かもしれないが、水を遣ったのは君だ」
お義父さんは微笑んだ。
「あの頃僕は二十歳になった若造でね。つるんでいた連中が結婚だの恋愛だのにうつつを抜かし始めて暇だった。暇だったから、少年、君が必死に有朱ちゃんを助けようとしているのを見つけて、これ幸いと助太刀したまでだ。僕はただ暇だったんだ。それに、君があんなに必死じゃなかったら、助けに入ろうとも思わなかったかもね」
「……」
るいくんは絶句していた。憧れの【雷光】とはほど遠かったからかもしれない。
わたしはわたしで、ようやくお義父さんの「底」に触れたような気がして、少しほっとしていた。お義父さんは誰から見ても完璧で優しくて非の打ち所がないひとだったから、人間らしい一面を見ることができて、正直……ほっとした。
この人も人間なんだ、って。天使とか神様とかじゃないんだって。わたしはようやく、このひとのことを、わかり始めることができたような気がする。
るいくんから『決めたよ』とメッセージが来たのはその夜だった。
「何を決めたの?」
『なあなあになってる、清音のトップのこと、はっきりさせる』
返信を打つ前に、続きが送られてくる。
『俺が清音のトップに成る。そんで【ヤンキー道】を広める』
「うん。……応援する」
『そんで、ありすはオレの彼女だって宣言する』
「……本気?」
『ほんき』
本気らしい。
わたしは書きかけの文章題を放り出して、スマホを手にベッドに寝転がる。
「るいくん、本当にわたしのこと好きすぎ」
『好きだから仕方ない』
「そんなるいくんだから好き」
『オレも好きだよ』
わたしはスマホを胸の上において、ぐっと伸びをした。文化祭まであと一週間。
この一週間がどれほど怒濤かを知らずに、わたしはつかの間の幸福に浸っていた。


