航平の家で3人で遊んだ日。

「じゃ、俺ら帰るわ〜。」
亮ちゃんが立ち上がり、ふと時計を見ると18時半。
「あ、そう。」
航平が漫画から顔を上げる。

「お邪魔しました〜」
家を出るときに玄関からキッチンの方に声をかける。「気をつけてね〜!」航平のお母さんの声がした。
「はぁ〜い」亮ちゃんが返事をする。

航平も、サンダルをつっかけて一緒に外に出る。

夏休みに入る前の7月。18時半。夏の夕暮れ。

亮ちゃんが乗ってきた自転車の後ろに座る。
「スカート巻き込むなよ〜。」
航平も自分の自転車に乗りながら、笑う。

目の前に広がる真っ直ぐな下り坂。青々とした木々。右側には大きな夕日。蝉の鳴き声と鼻をくすぐる夏の匂いに心が躍る。
今なら、思い切り走り抜けられる気がした。


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坂にさしかかり、亮ちゃんが、ゆっくりブレーキをかける。半袖からのぞいた腕に、微かに血管がうかび上がる。
勿体ない、と思ってしまった。
亮ちゃんの腰に回した腕に、ぎゅっと力を込める。
「亮ちゃん、」
「ん〜?」
「もっと速く走りたい!」
「えぇ!?」
「坂をビューンってしたい!」

亮ちゃんは一瞬躊躇ってから、「いいよ。」って笑った。

亮ちゃんの、ブレーキを握る手にこめる力が徐々に弱まっていく。緩める力に比例するように、自転車が速度を増していく。

「おい高橋〜!コケんなよ〜!」
後ろから航平の声がした。