Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

 想乃はグラスをじっと見つめながら、小さく息を吐いた。不安が滲む想乃の横顔を見て、慧弥は優しげに目を細める。

「世の中には、知らないほうが幸せなこともある。このままグレーにしておくといいよ」

 その言葉の端々から、慧弥がすでにXの正体に察しをつけていることが伝わってくる。

 わかっていて……でも、私には知らせたくないってこと?

 ぼんやりとそう思った瞬間、胸の奥にざわりとした違和感が広がる。けれど、それを追求するのは怖かった。

 慧弥がふとローテーブルに手を伸ばし、ナッツ入りのチョコをひとつ摘む。包みを開けかけたところで、「あ」と、何かを思い出したように顔を上げた。

「あとひとつだけ。おかしな違和感を解消しておくね?」
「え」

 想乃も慧弥と同じようにチョコに手を伸ばした。摘んだまま、彼の茶色い目をじっと見つめる。

「想乃が以前つけていた日記サイトのことだけど……美海に、ピアノSのアカウントが想乃だとバレたって言ってたよね? それで書くのをやめたって」
「……はい」

 そうなのだ。匿名で綴っていたはずの慧弥への片思いの記録。それが、たまたま見つかり、美海に自分だと言い当てられてしまった。