Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

 それでも穂花は「慧弥を苦しめるためにやったのではない」と主張した。

 だが、積み上がる証拠の前に抗弁は無意味だった。

 最終的に、穂花は逮捕された。

 彼女の逮捕を機に、慧弥の父・慧は離婚を決意する。

 十年連れ添った夫婦関係は、こうして静かに終わりを迎えた。


 その数日後、慧弥は父に対し、これまで言えずにいた過去のトラウマを打ち明けた。

 穂花から受けた精神的な苦痛が今も癒えず、恐怖と屈辱の中で生きてきたことを、淡々とした口調で語る。

 社会に出るまで荒れた生活を繰り返した理由も、静かに明かした。

 慧は、息子の言葉を最後まで黙って聞いていた。

 そして、すべてを知ったとき、深く後悔し、悲しみのあまり涙を流した。

 自分が気づいてやれなかったことを悔やみ、何度も謝罪の言葉を繰り返していた。


 *

 やがて三月に入り、冬の名残を残しつつも、少しずつ空気が柔らかくなっていく。

 朝晩の冷え込みはまだ厳しいが、昼間の日差しには春の訪れを予感させる温もりがあった。

 冷たい風とともに、雨が降る日が続いた。

 アスファルトを濡らす雨粒が、冬の乾いた空気を押し流し、次第に季節を変えていく。

 地面には小さな芽吹きが顔を出し、木々の枝には新しい蕾が膨らみ始めていた。

 厚手のコートを手放すにはまだ早いが、それでも春は確実に近づいていた。