Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

「前に、慧弥さんが穂花さんをよく思っていないふうに言っていて」

 想乃の質問を受けた途端、田代の表情が露骨に変化した。目を見張り、息を詰める。明らかに動揺していた。

「驚きました」と田代が息をつく。手にしていたカップをソーサーに置き、再び嘆息をもらした。

「実は昨日、警察の方からも同じような質問をされたので」
「えっ、そうなんですか?」
「はい」

 田代はどこか鎮痛な面持ちで目を伏せた。

「不仲……と言い表わすには……少し軽すぎるかもしれません」

 軽すぎる……?

 想乃は眉をひそめ、田代を見つめた。彼女は過去を想起し、沈んだ声で続けた。

「後妻の穂花さんが……並樹家に嫁がれたのは、もう十年も前の、春のことです」

 想乃もカップをソーサーに置き、田代の話に耳を傾けた。

 その当時、慧弥は十六歳。高校二年生だった。出会った当初は互いによそよそしく、それも当然のことのように思えたと田代は言った。

「五月の終わり、黎奈さまが海外留学に出られてからは……割と穏やかでした。慧弥さまも、穂花さんを義母(はは)として受け入れているように見えました。ですが、秋ごろ……でしょうか。ご実家におられても、突然穂花さんを避けるようになられて。それから、“いざこざ”が起こりました」
「いざこざ……?」