Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

 田代は掃除、洗濯、料理と順々に取り掛かった。動きに一切の無駄がなく、掃除も洗濯も流れるようにこなしていく。まさにプロフェッショナルなのだと感じ、想乃は思わず田代の姿に見惚れた。

 想乃が所在なさげに立っていると、田代がふっと微笑んで「ソファでくつろいでいてくださいね」と優しく言った。

「あとでお茶をお淹れしますから」

 想乃は恐縮の思いで頷き、「ありがとうございます」と礼を言った。

 ソファに座り、自宅から持参した楽譜をローテーブルに広げた。ピアノと離れている間も、譜読みならできると思ったのだ。

 音を出さなくても、旋律を頭の中で鳴らすことはできる。

 想乃は五線譜を目でなぞりながら、想像の鍵盤を弾いた。右手の指先でメロディの流れをなぞりながら、左手のコードをどう配置するか考えた。

 時おりメロディを口ずさみながら「ここで転調するから、次の小節で雰囲気が変わる」と確認する。

 膝の上を指でトントンと叩きながら、コードの流れを追った。

「ここでG7に行くから、次のCはスッと解決する……」

 無意識に左手が動き、空中で和音を押さえる仕草をしていた。

 集中する想乃の様子を見て、田代はくすっと微笑んだ。

 気づけば一時間が経ち、田代の声がふっと響いた。

「そろそろお茶にしましょうか?」