Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

 私が待ち受ける不幸な未来がわかるのなら、教えてほしい。ひとりで抱え込まないでほしい、そう思った。

 翌日、郷が通学したあと、慧弥の部屋にひとりの来客があった。慧弥から事前に知らされていたので、訪ねてきた女性を見ても驚きはしなかった。それよりも、なぜか不思議と嬉しい気持ちになった。

 女性は五十代半ばぐらいの外見をしており、「並樹家でお世話になっている田代(たしろ)美智子(みちこ)と申します」と上品に頭を下げた。

 田代は、並樹家で働く家政婦だ。その落ち着いた所作に、想乃は思わず姿勢を正し、慌てて頭を下げた。「浅倉想乃と申します」と言いながら、少しだけ照れてしまう。

「慧弥お坊ちゃんから伺っていますよ、あなたのこと。とても大切に思っていると」

 そう言って微笑んだ顔は慈愛に満ちており、想乃は思わず母の笑みを思い出した。田代は「あら」と口を開け、しまったという顔つきになった。

「お坊ちゃんと呼ばないでほしいと言われていたのに、私ったら」

 田代はくすっと笑い、キッチンへ向かった。

「何せ、慧弥さまを幼少期のころから知っているものですから……つい」

 彼女は両手に抱えた買い物袋から食材を取り出し、冷蔵庫へ仕舞っていく。そして鞄の中から掃除用具を取り出した。