Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜

　ブラックマーブルの壁に間接照明が反射し、ラグジュアリーな輝きを放っていた。
そして視線を上げると、バスタブの向こう側に、煌めく夜景が広がっている。

　想乃は大きく目を見張り、思わず息をのんだ。

　慧弥さんが言っていた通り……いや、それ以上かもしれない。

　実際に目にすると、言葉にならないほどの感動が込み上げる。

　夜の街が、浴室とひとつになったような気がした。

　湯気がゆるやかに立ちのぼり、光の粒がぼんやりと滲む。

　こんなに大きな窓があるのに、外からは見えない。マジックミラーだとわかっていても、どこか不思議な感覚になる。広大な宇宙の中に溶けていくような、不思議な空間だ。

「……すごいね」

　リビングから見た夜景とは、また違う美しさだった。

「慧弥さん、言ってたよ。この部屋を選んだ理由、浴室からの夜景が気に入ったからだって」

　静かな感動から、想乃の目に涙が滲んだ。

　入浴を済ませると、デリバリーサービスで頼んでいた夕食がコンシェルジュ経由で届けられた。

「なんか……すげー贅沢な旅行に来たみたい！」

　そう言って郷はソファの上で足をぶらつかせた。終始楽しそうにしていた。

　想乃と慧弥の一方的な事情で、生活の拠点を突然変えられたのに。全く気にしていない。気にするどころか、非日常的な空間に喜んですらいる。