夕方、五時に差し掛かる頃、水沢に付き添われて郷がマンションにやって来た。
初めて上がる慧弥のマンションに、郷は言うまでもなく圧倒されていた。
水沢は部屋に入るなり、簡潔に明日からの登校について説明した。そのタイミングで、コンシェルジュから連絡が入った。
「浅倉さんは部屋にいて」
水沢に言われ、郷と二人でまた出て行った。しばらくして、宅配業者から届いた寝具を抱えて戻ってくる。
想乃は水沢に再三礼を言い、会釈をして別れた。
「すごいね、この部屋。まるでホテルみたい」
「そうだね」
郷のリアクションは、初めて想乃が部屋を訪れたときと同様だった。
この広い部屋に、慧弥はひとりで住んでいる。いったい家賃はいくらぐらいなのだろう。今さらながら思ってしまう。
「うわぁ、すげーよ、姉ちゃん! 見て見て?」
室内を歩き回っていた郷が、浴室で無邪気な声を上げた。外はもう暗く、リビングの窓には美しい夜景が広がっている。
想乃は郷の感動を察して、ソファから立ち上がった。
浴室へ向かうと、すでに郷がバスタブの縁に身を乗り出して、目を輝かせていた。
「姉ちゃん、見て! 外、めっちゃ綺麗!」
開けっ放しの浴室に足を踏み入れた瞬間、ふわりとアロマの香りが鼻をかすめた。



