「どうぞ心ゆくまでご試弾ください」

 慧弥に連れられて大きなピアノショールームに来ていた。広いギャラリーにずらりと並んだグランドピアノやアップライトピアノ。光沢のある鍵盤を見ていると、自然と気持ちが浮き立つのを感じた。電子ピアノも置いてあった。

 想乃はピアノ調律師の勧めでそれぞれを弾き比べてみることにした。目を惹かれたグランドピアノに寄り、低音と高音を鳴らしてその響きに耳を済ませる。

「実際に座って弾いてみたら?」

 そばで見守る慧弥に椅子を勧められて、静かに腰を下ろした。鍵盤に両手を乗せて息をつく。さて何を弾こうか。そう考えてから、ひとまず大学でよく弾いていた曲を弾くことにした。

 早い連打で弾くことと弱い音で優しく弾くことに気を遣いながら、ちゃんと音が出ているのか、音の伸びの具合なんかもチェックする。弾き始めて数分も経つと、それぞれが思った通りの音色を奏で、次第に気持ちが(たかぶ)ってくる。慧弥にリクエストされて、有名でしっとりとしたクラシック曲も弾いた。

 想乃は三十分ほどかけてふたつのピアノを弾き比べ、調律師にアドバイスをもらいながらひとつのものを選んだ。外観が真っ白なグランドピアノだった。

 スムーズに支払いと宅配の手配を済ませて店を出る。