これは私、久保田瑞希と、当時のクラスメートの藤井正樹が実際に体験した話です。
他の人に信じてもらえないかもしれない。
だけど、ここですべてを話します。



それはとても暑い日で、夏休みに入って3日が経過したときのことでした。
私はひとり家のリビングでエアコンをつけて、アイスを食べていました。
私の両親は共働きなので、昼間は私ひとりになります。

家の電話には出ないように、玄関を開ける前にかならずモニターで確認すること、とキツク言われていましたが、後のことは自由でした。
宿題をしてもいいし、ゲームをしたり、漫画を読んでもいい。

友達と遊びに出かけるときには玄関に鍵をかけて、その鍵は玄関横に置かれている鉢植えの下に隠しておくように言われていました。

昨日はくもり空で風もあったからクラスメートの正樹くんと近所の市営プールまで出かけたけれど、今日の気温は40度なので外には出ていません。

テレビニュースをつけてみればひっきりなしに熱中症とか、体調管理とかを訴えているので、きっとエアコンのついた部屋からは出ないほうがいいんだと思いました。
そうしてアイスを食べ終えた頃のことでした。

少し宿題を進めておこうかなと、考えつきました。
私達、6年A組のクラス担任は50代の女性ですが、宿題を忘れたときの怒り方は普段とは異なります。

友達と喧嘩をしたとか、ケガをしたときは困り顔の中に自愛のようなものを感じるのですが、宿題を忘れたときだけはその自愛というものが抜け落ちてしまいます。
宿題を忘れた子は休憩時間中にそれをしなければいけません。

そうするともちろん友達と遊ぶ時間はなくなってしまいます。
だけどさぼることもできません。
先生が目の前の席に座って、宿題が終わるまでずっと見ているからです。