手が触れるだけで、ドキドキした。
ちょっと、触れただけ。ちょっと、言葉を交わしただけなのに。不意にする、何気ない仕草に、ドキリとする。
慎司君と一緒にいたいという気持ちが恋ではないかと思った時から、慎司君を見る目が180度変わってしまった。今まで平気だったことができなくなって、それがますます気恥ずかしさを増長する。
慎司君もあんなことがあって気まずいのだろう。距離が近づけばサッと離れ、目が合えばふいっとそらされる。それが悲しいような、今は助かるような。なんとも言えない気持ちに、旅行の二日目は悩まされた。
そわそわ。そわそわ。
私達の関係をなんというのか。今、どうなっているのか。これからどうなるのか。お互い聞くに聞けないまま、どこまでなら近づいていいのか。どこまでなら許されるのか。二人で探り合う感覚がまた照れくさい。
慎司君とこんなことになるなんて…と、高校の頃の慎司君を思い返す。そして、やめておけばよかったと思った。過去まで美化されて、慎司君が今も含めてとんでもなくカッコよく見えてしまったからだ。
確かに、慎司君はかっこいい方だとは思っていた。けれど、かっこいいと思ったことはない。その言葉が形容するのはいつも慶人君だった。
私、本当にどうしちゃったんだろう……。
「静香っ…!!」
たとえ後ろ姿でも慎司君を直視できなくて、前方不注意で段差を踏み外した私を、慎司君が咄嗟に抱き留める。
服越しにでも感じる慎司君の骨太な腕や硬い筋肉に、またドキドキ恥ずかしくて。お礼を言いながらサッと離れた。慎司君の方も、何とも言えないような顔をしていて、非常に気まずい。
いつも歩き慣れている道で踏み外すなんて…
どれだけ平常心を保てていないのか。
「静香、鍵、出せる?」
「へ? あっ、鍵ね! えーっと、ちょっと待ってね。」
長いようで短かった旅行も終わり、家に帰り着いた。暗闇の中、両手に私の分まで荷物を持ってくれている慎司君に代わって鍵を探す。
「俺の鞄の、内ポケット。 ない?」
「あ、そっちね。」
いつもと違う場所にしまわれていた鍵をごそごそ探していると、ガチャ…とすぐそばで音がした。
「こんばんは、静香ちゃん。 …牧瀬君も。」
開く扉が、やけにスローモーションに見えた。
「待ってたよ。」
旅行から帰宅した私に待ち構えていたのは、第2ラウンド。慶人君とのお話し合いだった。

