「それは…」
「それは情だって、言うんでしょう?」
慎司君は何も答えない。でもまた背を向けようとするから、浴衣を掴んで引き留める。
「それでもいい。 一緒にいたい。 いてほしいの…。」
まだ気持ちが整理されていない段階で、安易に好きだとは伝えられなかった。伝えてはいけないとも思った。仮に伝えたとしても、嘘っぽく聞こえてしまうだろう。
何か… 慎司君が私の言葉を信じてくれるための何かはないだろうか。
「…………あ。」
慎司君が横になる向こう側。ふと目に入ったそれを見て、衝動的に身体が動いた。今送信したばかりのメッセージを、慎司君に見せる。
宛先は、慶人君。
内容は、告白への返事。
付き合うことはできません、という返事。
暗闇に慣れきっていた目をこすり、画面を見た慎司君は、バッと顔を上げる。
「静香っ、これ…!」
「正直に言うと、恋愛的な好きを、私はよくわからない…。 2人とも大好き。 でも、違う好きなの。 それに甲乙なんて、私にはつけられない。」
だけど、と身を乗り出す。
「慎司君と一緒にいたいのは本当! どっちを好きかじゃなくて、大切にしたいかって思ったら…慎司君を大切にしたいの!」
大切にしなければいけないと思う。それが慎司君のいう情でも、それでもいい。後悔はしないだろうと思う。なぜなら、私が一番辛い時、一緒にいてくれた人だ。そんな人を捨てるようなことをする方が、後悔すると思うから。

