恋は揺らめぎの間に




驚いたのは、慎司君だけではない。言った本人も驚いている。

なぜ、こんなことを言ってしまったのか。勢いとは恐ろしいもので、それもわからないまま、次から次へと言葉が口から飛び出していく。



「私のこと、好きだったの? 今も? 好きなの?」

「静香、ちょっと待って…。」

「前聞いた時も、結局教えてくれないままだったじゃない!」



押される肩を、押し戻す。



「私のこと、好きなの? 好きじゃないなら、好きじゃないって言って!」



嘘…。嫌だ。
好きじゃないなんて、聞きたくない。

すがる私を抱えたまま、慎司君は起き上がる。そして、興奮する私をなだめるように、背中を撫でた。けれど、抱き締めることはしないし、待てど待てども何も言わない。

優しい手つきとは裏腹に、突き放すようなものを、そこに感じた。



「………どうして、そんな頑ななの?」



慎司君がふっと笑うのがわかった。



「静香のこと、嫌いなはずないだろ?」

「じゃあ…」

「だから、言えないんだ。」



顔を上げると、慎司君と目が合う。優しくて、何もかも包みこんでくれるような、そんな優しい眼差しだった。頬を撫でる手もまた優しい。



「静香がずっと、アイツのことが好きだったこと、知ってるから。 忘れられなかったことも…。 ここで、情に流されたら駄目だ。」

「慎司君はそれでいいの…? 私が、慶人君と付き合ってもいいの?」



慎司君は眉尻を下げ、困った顔をしている。



「…ごめん。」



私は祈るように、もう一度だけ聞く。



「私のこと、好き……?」

「…………今日はもう、寝よう。」