「慎司君、慎司君ってば。」
布団の上にうつ伏せに寝転んでいる慎司君の身体を揺らす。
「慎司君、お話しよ? 約束は?」
夕食中も、それから部屋に戻ってきても、温泉へ行って、そして戻ってきた今も。慎司君はお母さんのことを…特にお母さんが最後に残していった言葉についての話題を避け続けた。
「ご飯の時、後でって言ったよね?」
「もっと後で…。」
「あと寝るだけだよ?」
慎司君がじと〜っと、全然怖くない目で見てくる。怖いどころか少し可愛さを感じる目で。
慎司君も譲らないが、私も譲れず、にらめっこが続く。やがて慎司君が大きな溜め息をついた。
「…静香が行こうとしてた大学、知ってたから、あそこにした。 それだけ。」
慎司君は顔を伏せたまま、手短にささっと話す。
慎司君の方が、先に進路は決まっていたはずだ。私の合格発表を待つよりも先に、大学に近いあの部屋を契約していたのは……
「私に会うため…?」
慎司君の反応はない。けれど、それが何よりの肯定。
「どうして……?」
慎司君はまた、目線だけ私に向ける。だけど先程とは違って、恨めしそうな…何かを訴えかけている目だった。
「慎司く…わっ!?」
腕を掴まれ、引っ張られる。ごろんと仰向けに寝返る際にされたものだから、慎司君の身体の上に、私は倒れ込んでしまった。

