恋は揺らめぎの間に




「慎司って静香ちゃんの前でどう? ちゃんとしとるやろか。」

「もう帰って…本当に。」



慎司君がこんなに取り乱しているのも珍しい。思わずくすっと笑ってしまう。



「慎司君はとっても優しいですよ。 私の手を気遣って、お皿洗いやお水回りのお掃除は慎司君が買って出てくれるんです。 それに、とても頼りになります。 今日だって……」



静香ストップと、口を塞がれる。慎司君のお母さんは口をぽかーんと開けていた。



「…二人、一緒に住んでるん?」

「え?」



言ってなかったの!?と慎司君を仰ぎ見る。一緒に暮らす前、私の家には慎司君が挨拶に来ていた。その際に慎司君の家もと言ったが、自分が言っておくと頑なに断られていたのだ。
慎司君は悪いと思ってはいるのだろう。目を泳がせている。



「ご、ごめんなさい! 私、てっきりっ…! あ、ああああの……!」

「あ、ええよええよ。 びっくりしただけで、反対はせんから。 それにしても、ふーん…。 そういうこと。」



慎司君はお母さんからじろじろ頭の先から爪先までじーっと見つめられて、居た堪れなくなったのか、後ろに少しずつ下がっていった。



「もう帰って…。 本当、頼むから。」

「はいはい。 慎司がなーんであのマンションに決めたかわかりましたから、今日は帰ってあげましょう。」

「余計なこと言うな。」

「はいはい。 大好きな静香ちゃんと住みたくて借りたなんて、口が裂けてもいいまへん。 ほなさいなら。」



慎司君のお母さんが踵を返す。カツカツとヒールを鳴らしながら、シャキシャキと歩く後ろ姿はとても成人した子どもを持つ人には見えなかった。

それにしても、



「今の、どういうこと…?」



慎司君は目を見開き、真っ赤になった顔を手で隠す。



「…とりあえず、ご飯行こう。」