「こ、こんにちは…。」
「あら、こんにちは〜。」
にっこり微笑んでくれる、背が高くてスレンダーな美女。バッチリスーツを着こなして、片足に体重をかけて腕組みする姿が様になっている。私を一瞥してすぐに慎司君を見る美女は、びしっと慎司君を指してにっこり笑った。
「慎司、紹介。」
切れ長の目は、本当の意味で笑ってはいない。慎司君もしどろもどろになっている。
この人…もしかして………。
やがて観念したように、慎司君は私を紹介してくれた。
「花江静香さん、です。 ごめん、静香。 この人は
、俺の母さん。 祖母から聞きつけて来たらしい…。 本当、ごめん。」
「人聞き悪いわ!」
バシッと慎司君をなかなかの力で叩く女性…もとい慎司君のお母さん。すらりとした長身で、ショートカットがよく似合っており、特に目元は慎司君とそっくりだった。
「家じゃなくて旅館に泊まるなんて、普通気になるわ! 普段連絡も全く寄越さんどって…。 せやから女っ気ない慎司のお相手の顔、見て帰ったろ思ったのに。 まあ、あちらさんから来てくれたみたいやから良しとしましょう。」
くるりと身体の向きを私の方へと向けたことにドキッとする。向けられる真っ直ぐな視線はさすが親子といったところか。とても慎司君と似ていた。
「息子がお世話になっとります。 慎司の母です。 よろしゅう。」
「はじめまして。 ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。 花江静香です。 こちらこそ、慎司君にはいつもお世話になってばかりで……」
「何言うとりますの。 慎司、女心とかわからんでしょう? 困らせてないか心配で心配で。 私に相談すればいいのに、宿も婆ちゃんに相談するから…」
「母さん…!」
もう黙って…と慎司君が頭を抱えている。慎司君の物静かさは、お母さんが原因かと思うほど、お母さんは圧倒させるほどよく喋る人だった。

