てっきりビジネスホテルか何かを想像していた私は、丁重に出迎えてくれたフロントスタッフさんの対応にドギマギしてしまった。とてもじゃないが、一学生が泊まるような場所ではない。
こういう時、慎司君を少し遠くに感じる。以前慎司君を含めた4人でご飯を食べた時、慎司君が全て支払いを持ってくれた時もそうだった。社会人かそうでないかの差は、かなり大きい。
同い年のはずなのに、慎司君だけ大人だ。
手続きをする慎司君の横顔をじっと見つめていると、恥ずかしくなってきたのだろうか。視界を手のひらで覆われてしまった。
「どこに行きたい?」
荷物を預けて旅館を出て、タクシーを待った。その間に旅館から貰ったパンフレットを2人で覗き込む。
「慎司君は? どこか行きたい所はないの?」
「静香が行きたい所に行きたい。」
そう言うと思っていた。
面倒だからそう言っているのではない。優しさから、そう言える人なのだ。

