「それから、静香にお願いがある。」



零れそうになっていた涙を、バレないようにさっと拭く。



「お願い?」



慎司君はじっとこちらを見つめて、言うか、言わないか、悩んでいるようだった。少し視線を外して、口元を長めの袖で覆って、もごもごと何かを言いかけている。



「明日……」

「明日?」



慎司君がちらっとこちらを見る。



「明日、なあに?」



首を傾げて慎司君を覗き込む。

そんなに言いづらい…重要なことなのだろうか?

明日は空けておいてほしいとお願いがあったので空けているが、理由は知らされていなかった。
慎司君が引っ越しを決めたのなら、部屋の契約のことだろうか?それとも別の案件で?
珍しい慎司君からのお願いに不安と心配にかられた私は、慎司君に迫る。



「明日は何があるの? 私、何か書類を書いたりしないといけない?」



慎司君は恥ずかしそうに俯いて、首を横に振った。




「違うんだ…。 ただ……」

「ただ?」

「旅行…してほしいんだ。」



思ってもみなかったお願いに、



「ふえ?」



自分でもマヌケだと思う声が出た。