家に着くまで、慎司君は終始無言だった。話しかけることができるような雰囲気でもなく、私も押し黙ったまま、お風呂などを済ませた。そしてあとは寝るだけの状態になって、ようやく慎司君は私の名前を呼んだ。



「静香。」



不覚にも、きゅんとした。

炬燵に入り、座った状態の慎司君がこちらを見上げている。少し布団を持ち上げて、隣に誘ってくれるので、私はおずおずとそこに座った。



「明日と明後日は、大丈夫?」

「うん。 何かあるの?」



先程まで慎司君がいじっていたパソコンの画面を覗き込もうとしたが、パタンと見る前に閉じられた。

また黙ってしまった慎司君に、次は何を言われるだろうか。色々なことを想像して、不安が駆け巡る。 

やっぱり、慶人君とのことだろうか…。それとも部屋が見つかったとか、そういう話だろうか。何にせよ自分にとってはいい話ではないような気がして、聞く気も起きない。

こっそり慎司君の表情を伺おうと思って視線をそろりそろりと上げていくと、ばっちり慎司君と目があってしまった。驚いて、そのまま目を見合わせた状態で固まっていると、慎司君がようやく口を開いた。



「……部屋、仮押さえしてきた。」



グサッと、心が刃物で突き刺されるような感覚が走った。

何で私、こんなにショックを受けているんだろう…。

それを悟られないように、笑顔を意識してつくる。



「そっか。 じゃあ、私も急いで部屋を探さなくちゃね…っ!」

「このままここに住んでも…」

「それは出来ないよ。」



そんなことは、できない。ここで暮らした時間はそう長くはなかったけれど、そこかしこに慎司君との思い出が詰まっているのだ。そんな場所で、慎司君なしで暮らそうなんて、できるはずがない。



「だから、もうちょっと待ってくれる? 春休みだから…今のうちに探すから。」

「…わかった。」



慶人君と再会したばかりの頃、慎司君は私との関係を解消する気はないと言っていた。けれど、もう、慎司君にその気持ちはないんだ…。

取り返しのつかないところまで来てしまったのだと気づき、泣きたくなった。