「慶人君と付き合ってるって本当…!!?」



今年度最後のテストも終わり、学科生全員で先輩を送り出すコンパが開かれた。その端でぼけ〜っとしていたところに、一華ちゃんがこそこそとやって来た。



「最近一緒にいるなとは思ってたけど、噂になってるよ!?」

「…うん。」

「うん…って、それどっちのうん!?」



私達の話が気になるのか、ちらちらとこちらを伺う人が目に入る。

慶人君はかっこいい。それは、誰もが認めるところで、学部を越えて慶人君の人気は高かった。その人物が最近、以前にもまして私を連れ立って歩いていたら、噂にもなるというもの。



「其の実どうなってるの…?」



一華ちゃんに、バレンタインの出来事を話す。告白されたこと、一緒に住もうと言われたこと、キスをされたこと。
それを話す恥ずかしさよりも、この事態を何とかしてほしい。そんな思いだった。

慶人君はあの日以来、学校へ行く時必ず一緒で、お昼も一緒。帰りも一緒だった。



「慎司君とは?」

「バレンタインはしたけれど、ちゃんとは話せてなくて。 でも、明日明後日は一緒に過ごすの。 なんか、空けておいてって言われたから…。」

「いや…誰と付き合う付き合わないの話よ。 慶人君と付き合うって慎司君には言ったの?」

「そもそも慶人君と付き合うなんて、私、まだ返事もしてないの。」



一華ちゃんは口をあんぐりと開ける。



「え? はい? だって、慶人君と……」



そう見えるのだろう。仕方がないと思う。私もそう思ってしまうくらい、慶人君の振る舞い様はもう彼氏だった。



「静香……。」

「どうしよう一華ちゃん…。 私、自分で自分がわからないし、こんな私が嫌でしょうがないの…。」



早く、スッパリ決めてしまった方が二人のためになるのはわかっているのに。わかっていてそれができない私にうんざりする。

優柔不断なところは前からあったが、こんなにも決められないなんて。本当に、本当に、嫌気がさす。


慶人君のことは間違いなく好きだ。ずっと好きだった人に、好きだって言われて、本当に嬉しい。お付き合いできたら、きっと幸せになれると思う。しかし、今も、今までも一緒にいてくれた慎司君を捨ててまで、付き合いたいとも思わないのだ。

じゃあ、慶人君をキッパリ忘れ去って、慎司君とちゃんと付き合えばいいではないかというと、それも違う気がした。慶人君に抱く想いと慎司君に抱く想いは違うものだからだ。さらにいえば、慶人君とキスまでしてしまって、慶人君のことを忘れると言いながら忘れなかった私を、慎司君がどう思っているか…。元の鞘に収まろうなんて、図々しい話だと思う。



「…なんで、こんなことになっちゃったんだろう。」

「溜め息つくと、幸せが逃げちゃうわよ。」



と言われても、つかづにはいられないのである。



「世界にはさ、一妻多夫制ってあるじゃない?」

「うん。」



突然何?と沈んでいた顔を上げる。



「静香もそれでいく?」

「またそんな……」



突拍子もない、いい加減なことを、また深く溜め息をつく。一華ちゃんはでもでも!と言葉を続ける。



「当事者がよければできないこともないよね? ニュースでそういう人、見たことあるよ?」

「私にそれができると思う?」

「まあ、できないと思うね。」



一華ちゃんはハハッと笑うが、私はとてもそんな気にはなれなかった。