恋は揺らめぎの間に




今、私…何を言った?



「え…?」




慶人君が顔を上げる。と同時に私は顔を下げた。



「ほ、ほら…お豆腐! ほろっとなって、美味しくて好きだなって! 慶人君はもう食べた?」



ほらっと箸で持ち上げたお豆腐が、箸の隙間から崩れてお皿へ落ち、ぼちゃっと音をたてる。




「ス、スプーンの方がよかったかな? 借りてもいい?」



私は逃げるようにキッチンへ立った。

いやいや、私、何を口走っているんだろう。
好き? 確かに、高校の頃はそうだった。今も思い出すだけでキュンとくるくらいには好きだ。

しかし……。
 
好きというワードに、慎司君の顔が過った。

慎司君も、慶人君も私が好き? 私は、慶人君がまだ好き? じゃあ、慎司君に対して抱いているこの感情は………?



「…静香ちゃん。」



ふと視界が薄暗くなった。背後に立った慶人君の影に入ってしまったようである。抜け出そうとした矢先に
そのまま両手を両サイドにつかれ、身動きが取れなくなる。



「け、慶人君? どうしたの? スプーンなら私が…………」

「さっきの言葉、もう一回、言ってくれない?」

「え…?」



心臓がバクバクと音を立て始める。



「さっき、好きって、言わなかった……?」