何と答えれば良いか迷っている内に、鍋がぐつぐつと音をたてて吹きこぼれ、私達は慌てて離れた。それがおかしくて、顔を見合わせて笑う。
「とりあえず、食べようか。」
「うんっ。」
蓋を開けると、ほわ〜と立ち上る湯気。立ち込める美味しそうな香りに喉をごくりと鳴らしてしまった。真っ白なスープに浮かぶお豆腐がとても美味しそう。
いただきます、と手を合わせる。
ほろほろ熱々のお豆腐に早速火傷する私を、慶人君は笑いながらお茶を差し出す。
「気をつけてね。」
「ありがとう…。」
「あ、これ凄く良かったよ! スープが絡んでいいね。」
慶人君は薄くスライスしたお野菜に感動している。
「今度家族にも教えるよ。」
「もう春休みだよね。 ご実家には帰るの?」
「ちょっとだけね。 父さんと母さんの結婚何周年かの旅行に付き合わないといけないんだ。」
「家族仲良いんだね。」
「まあ、それなりにだけどね。 2人で行けばいいのに、3人にこだわるから…。」
本当はそんなことは思っていないだろうに、困ったと肩を竦めてみせる慶人君。その言葉に、何故か引っかかる。
「………3人?」
今、慶人君は3人って言ったよね?
箸を止めた私を不思議そうに見つめる慶人君。
「どうかした?」
「…慶人君って、3人家族なの?」
慶人君はきょとんとしている。
「慶人君、お姉さんがいるって………」
お姉さんがいるから、共通のアニメの話が出来て、そのグッズだってくれたのではなかったのか。
しばしの沈黙の後、私の質問の意図を理解したのだろう。慶人君はさっと顔を青ざめた後、今度は少しずつ赤くなっていった。
「慶人君、お姉さんがいるって言ってたのは、嘘だったの…?」

