「え!? 本当にこれでいいの!?」
「うん。 そうすると早く火が通るから。」
慶人君はへぇ〜と感心しながら、指示通り人参をピーラーでスライスしていく。時間も遅くなっているので、帰ってくるなりすぐに2人でキッチンに立つことにしたのだ。
慶人君は何でも器用にこなすイメージがあったが、意外にも料理はあまり得意ではないらしい。レシピ通りには作れるが、アレンジや目分量といったものが苦手なんだとか。そういうことにあまり気にしない私がさっさと料理を進める姿を見て、慶人君は感心すると同時におろおろしていた。
「これはもう入れていいのかな…?」
ふふっと笑みがこぼれる。
「どうぞ。」
ずっと好きだった人とキッチンに立って、あれこれ言いながら一緒に料理をしているなんて、なんだか……
「なんか、変な感じするよね。」
まさに今思っていたことを言われて、驚いて隣を見ると、目が合った。にっこりと笑いかけられる。
「こういう感じ… 付き合ってるみたいで、嬉しい。」
照れ笑いする慶人君に、こっちまで恥ずかしくなってきてしまって。あとは少し煮込めばいい状態にして、私は足早にキッチンから離れた。
そういうことを言われると、意識しまいとしていたのに、慶人君を意識してしまう。ドクドクと胸が脈打ってしまうのだ。
リビングのソファに座っていると、慶人君もすぐに後を追ってきた。
「…やっぱり、困る?」
私は首を横に振る。
「嬉しいけど、でも……」
「そうだよね。 ごめん…。 ちょっと、焦ってるんだ。」
牧瀬君がいて、と慶人君は小さな声で呟いた。

