「牧瀬君から聞いたんだけど… 静香ちゃん、ルームシェアしてるんだって?」
言ってくれたらよかったのに、とは言わなかったが、慶人君の目はそう訴えていた。寂しそうな、悲しそうな顔でじっと見つめられる。
上手く言っておく。そう言ったあの日の慎司君を思い出す。
「牧瀬君って、高校違うよね? どうやって知り合ったのか聞いても良いかな?」
「そうだよ! 私、高校の時の静香がどんなだったか聞きたいな!」
一華ちゃんが明るい声で話を上手く逸らしてくれる。
「私は静香と大学で知り合ったけど、みんなは高校の頃から知り合いなんだよね? 静香って、高校の頃はどんな感じだったの?」
「う〜ん…。 あんまり変わらないよね?」
慶人君は何を思い出しているのか。ふふふと笑ってこちらを見る。
「あの頃はクラスも違って、こんなに話すことはなかったから、僕も詳しいことは言えないけど、いつも一生懸命だったよね。」
「そ、そうかな…?」
運ばれて来た食事が手につかない。
「委員会では人の仕事まで代わってしてあげていたし、先生達からはよく仕事を頼まれて、廊下をいつも小走りで走っているイメージだよ。 加えて、朝早くから放課後は補講まで、凄く勉強してた。 頑張りやさんだよね。」
高校の頃の私が、慶人君にそんな風に思われていたとはつゆ知らず、驚きと共にそれをみんなの前で言われて強烈な恥ずかしさが襲ってきた。
一華ちゃんは慎司君にも話を振る。慎司君は手を止めて、少し考えた後、ちらっとこちらを見てきた。けれど、すぐに視線を反らして、
「別の高校だったから、詳しくは…。」
と口を閉ざしてしまった。
慎司君の素っ気なく感じる態度に、慶人君と一華ちゃんはポカンとしているが、私にはアレが通常運転だとわかる。むしろ慎司君にしては頑張っていると思う。慎司君は結構…いや、かなりの口下手なのだ。

