慎司君の振る舞いは、至って普段通りだった。一緒朝ご飯を作って、洗濯物を干して、部屋を掃除して。のんびりとした時間が流れる。
「慎司君も出かけるの?」
大学へ行く準備をしていると、慎司君がスウェットから私服へと着替えてきたので驚く。慎司君は出不精で、野球に行く以外は休日は家で寝ていることが多いのだ。
「うん。 ちょっと、部屋を見に。」
そのワードにドキリとする。昨夜の不安や悲しさ、色んな感情がぶわっと足下から駆け上がってきた。
「引っ越す…の…?」
慎司君はふっと笑う。
「静香はこのままこの部屋を使ってもいいし、アイツの部屋に行くでもいい。 決まったら教えて。」
「私、慶人君と付き合う気はないよ…?」
「今は俺がいるから… そう思い込んでるだけだ。」
さっと鞄を肩からかけて、靴を履いてしまう慎司君を追いかける。
「慎司君っ…!」
慎司君はぽんと、頭に手を乗せてくる。
「すぐにじゃないから。」
「嫌… 待って! 私っ…!」
「静香。」
ゆっくり、宥めるように、諭すように、慎司君は言葉を紡ぐ。
「時間はあるから。 ゆっくり考えて。 俺のことは考えないで。」
行ってきます、と頭を抱かれ、再度ぽんぽんと頭を優しく撫でられる。
私を気遣う慎司君の顔が無理に作られた顔だったから、私のためを思って今言っているのだとわかったから、私は慎司君を引き止めることができなかった。
そもそもそんな権利が、私にはないのではないだろうか…。
バタンと閉まる扉。静まり返る家。振り返るとそこかしこに慎司君との思い出を感じ取ることができる家。
私はここを、出なければならない……?
そんなことが、できるのだろうか。いや、しなければならないのだろう。

