「腹、痛い?」



低く、聞き慣れてしまった声にハッとして顔を上げる。やや切れ長の、深い黒を纏った瞳が、真っ直ぐに自分を見つめていた。




「ご、ごめん、ぼーっとしてた。 何か言った?」




彼は首を横に振り、静かに味噌汁を啜った。ほぅ…と白い湯気の向こうから、視線は依然として私に向けられている。

緊張が走る。

好きだけど、苦手な視線。全てを見透かされているような、真っ直ぐな視線。

目の前の彼は、すべてを知っている人だ。私が高校時代に夏木君を想い続けていたことも、今なお忘れずにいることも。夏木君のことをまた考えていたって、バレているのだろうか…。

居た堪れなくて、視線が、キョロキョロとしてしまう。



「……あのさ。」

「な、何?」

「今日の夜、予定ある?」
 
「ない…よ。」



彼は最後の味噌汁を啜る。そして、少し考える風にだぼっときたパーカーの袖で口元を覆う。上目でこちらを見つめる視線は先程向けられていたものよりも、うんと優しいものに変わっていた。



「…迎えに行く。」



彼の名前は、牧瀬慎司(まきせしんじ)君。今、お付き合い?をしている人だ。