待ち合わせは、大学の敷地内でも外れに位置するちょっとした植物園のような場所だった。春になったらたくさんの花が咲くだろうと思われるところに、東屋が立っている。その柱に背中を預けて、慶人君は待っていた。そこにただ立っているだけなのに、なぜか様になる。花も咲いたら、余計にそうだろう。
「ごめんね慶人君。 待った?」
パッとこちらを見て、慶人君は本当に嬉しそうに笑ってくれた。
「全然!」
同じ学年のはずなのに、慶人君は色んなことを知っている。植物園の近くに裏門とは異なる小さな出入り口があって、そこから出たところにいくつか飲食店や小売店があるなんて。いつも正門しか使わないから知りもしなかった。
「お昼はパスタでいいかな? 好き…だったよね?」
「え?」
「高校の時、学食で食べてたイメージ。」
そんなまさか、と驚く。
普段はお弁当だが、月に数回ほど学食を利用することがあった。男の子達は基本学食を利用していた。だからみんなで、それぞれの好きな人を見に行っていたのだ。
まさか、その時慶人君も私を見ていたなんて…!
「で、でも、目が合ったことないよね!?」
「静香ちゃんも僕のこと見てくれてたの?」
パアッと目を輝かせる慶人君。どうやら私はまた自分で墓穴を掘ったようだ。
「もしかして、静香ちゃんも僕のこと好きだった?」
あまりにストレートな物言いに、カアアッと熱が込み上がる。自分でも顔が真っ赤になっていることがわかるくらいに熱くなる顔を、冷たい両手で覆って隠した。
私はそのまま、こくりと頷く。
「なんだ。 両思いだったんだね。」
両思い、というパワーワードに、雷に打たれたような衝撃が走った。
そんなまさか、ありえない。 両思いだった?
私はそうとも知らずに勘違いと早とちりで涙を流して、もう会えないから忘れなくちゃと頑張っていたってこと?
ようやく思い出すこともなくなってきた頃に再会するなんて、神様は悪戯が過ぎるのではないだろうか。そして私達はなぜ今、あの頃の気持ちを伝えあっているのだろうか。あの頃にちゃんと、見ているだけじゃなくて、伝えていれば、今こんなことにはなっていなかったはずなのに。
「こんなことなら、早くに告白すればよかったよ。」
今更そんなこと言わないで、と返答に困ってしまったところで、目的のパスタが美味しかったというお店に着いて、ほっとした。

