ドクドクと速く刻み始めた心臓の鼓動音が、やけに大きく聞こえる。とても寒いはずなのに、汗までじんわりとかいてきた。

神様仏様…いや、この場合は目の前の名も知らぬ神様。 この状況は神様が私を救ってくださろうとしてつくられたものなのでしょうか? それとも腹を立ててつくられたものでしょうか?

財布から取り出そうとしていたお賽銭の額を、10倍の額に持ち替える。

どちらでもいいので、この状況を打開してください…!

気合いと願いを込めてえいやっと投げ込む。するとそれは風に吹かれてひらりと返ってきて、慎司君がキャッチする。




「何してんの…?」



…ごもっともです。

ちゃんといつも通りの額をいつも通り丁寧に納めようと財布を漁っていると、神様はさぞお怒りになっているのだろう。とんでもない奇跡を起こしてくれた。



「やっぱり! 静香ちゃんだった。」



ひょこっと目の前に、いつ見ても素敵なお顔が現れる。



「随分気合い入れて投げてたね。 可愛かったけど。」



全身から血の気が引いていくのがわかった。



「け、けけけけ慶人君!?」

「あけましておめでとうございます、静香ちゃん。」



開いた口がふさがらないとは、こういう時のための言葉だろう。

左に不機嫌そうな慎司君。右にニコニコの慶人君。

……これは、とんでもない状況になってしまった。