「高校の時、実は気になっていた子がいてさ。」

「えっ!?」



慶人君は遠くを見つめるかのように目を細めている。その表情はとても柔らかで、過去を慈しんでいるようだった。



「クラスも違うし、接点もあまりなくて、仲良くなれないまま卒業してさ。 卒業式の時、探してはみたんだけど見つけられなくて、もっと探しておけばよかったなぁと、今でも思う時がある。」

「それは…幸せ者だね、その人は。」

「そう?」



そうだといいけれど、と眉尻を下げて自信なさげに笑う慶人君を励ます。



「慶人君、すごくモテてたんだよ? そんな人に想われて、羨ましいよ。」



慶人君をずっと見ていたけれど、慶人君にもそんな人がいたとは。

誰だろう?サッカー部のマネージャーさんとか?

学校にいた綺麗どころの顔を思い浮かべていると、柔らかいものが頬に押し当てられた。



「これは?」

「プレゼントでしょう。 クリスマスなんだから。」

「え!? 私に!? そんなっ、ご飯食べるだけだと思ってたから、私、用意してない!」

「いいよ。 突然誘ったのは僕だからね。 それより開けてみてよ。」



小さな袋を開けてみると、可愛いリボンの髪留めが入っていた。イルミネーションの光をキラキラと反射させて輝くそれは、どこかで見た気がして……

うーんとうなる私を、慶人君はくすくす笑いながら見つめてくる。



「僕さ、神様っているんじゃないかって最近思うんだよね。」

「それはまた、突然だね…。」



慶人君って結構信心深い人だったの?

ちょっと身体を引くと、慌てて弁明を始める慶人君が、少し新鮮で、少し可愛い。



「いや、だって、ほら、信じたくなっちゃったんだよ。 まさかさ、思わないでしょ? 気になってた人と、またこうして会えるなんてさ。」

「え…?」

「再会したら、絶対言おうって思ってたことがあるんだ。」



人混みをはぐれないように声を掛け合う家族の声。友達同士ではしゃぐ声。恋人達が、愛を囁き合う声。これまでザワザワと聞こえていた様々な声や音が、一気に引いていく。

………思い出した。

慶人君がくれた髪留めは、私が好きな少女漫画とコラボしたブランドから最近発売されたものだ。可愛くて買いたいと思っていたけれど、値段が高すぎて、手を出す勇気がでなかったもの。ネットで予約しなければ、買えない代物。



「僕と付き合ってくれませんか?」



それは漫画で見るような、完璧なるシチュエーションだったと思う。

目に映る全てが、キラキラと輝いていた。