恋は揺らめぎの間に




「イルカ、可愛かったね!」



あまり記憶に残っていないけれど、とは言えない。

ショーが終わり、元のルートに戻る人の流れに私達も乗る。



「人凄いね…。」

「うん。」



はぐれないように、慎司君の服を掴む。その矢先に、ドンッと後ろから人がぶつかってきてふらついた。



「大丈夫か?」

「う、うん、平気。」



ちらっと追い抜かしていった人を見ると、先程斜め前で、イルカショーの間中いちゃついていたカップルだった。腕を組み、身体を寄せ合って見つめ合い、お互いしか見えていない世界にいる二人。きっと私にぶつかったのも、気づいてはいないだろう。

少しだけ、羨ましい。

今の私は、こうして慎司君の服を掴ませてもらっているだけで精一杯なのに。あんなふうになれたら…できたら………

と、ぽけ〜っとカップルの後ろ姿が見えなくなるまで見ていたら、突然慎司君にぐっと肩を抱き寄せられた。



「し、慎司君!? な、何っ……」



戸惑う私のすぐ横を、小さい子どもが走り抜けて行く。その後を、すみませんすみませんと謝りながら、それまた小さい子どもを抱えたお母さんが走り抜けて行った。

恥ずかしい…。慎司君はただ子どもにあたってしまわないようにしてくれただけなのに、期待してしまうなんて。カァッと赤くなる顔がバレないように、水槽の方に顔を向ける。水族館の中は薄暗いのが幸いだ。



「静香?」

「…あっ、大水槽!」



大水槽が見えてきて、歩みを速める。大水槽のある空間はひろくなっており、先程まで密になっていた人も、適度にバラけてしまった。



「見て慎司君! 大きいねぇ…。 サメもいるよ!」



慎司君が遅れて私の隣に立つ。



「あれ、慎司君の好きなお魚だ。」

「鰯?」

「そう。 好きだったよね?」

「鰯バーグ食べたい。」

「じゃあ夕飯はそれにしよっか。」



魚を前に夕飯の話って…と笑ってしまう。色気も何もないけれど、慎司君もふっと笑ってくれたから、私達はこんな感じでもいいのかもしれない。

さっきのカップルみたいに、キャッキャウフフとはいかなくてもいい。慎司君が隣にいてくれる、この安心感には変えられない。たまに魚の話をしながら、基本は静かに見上げているだけ。それが許されるこの空気感が、私は大好きだ。