春がやってきた。
構内が散りゆく桜でピンクに染まっているのを見ると、思い出す。初恋を諦めた高校卒業の日と、切り替えてがんばろうと誓った大学入学の日を。
「やっほ〜! 今日からいよいよ授業だね!」
「おはよう、一華ちゃん。」
学部棟に向かっていると、後ろからぽんと叩かれた。春休みはモデルのお仕事で忙しくてしてた一華ちゃんと会うのは久しぶりだ。
「見て! 新歓! 懐かしいよね〜。」
食堂近くを通ると、新入生を勧誘するサークルブースがずらりと並べられているその一端が見えた。私達は入っていないが、あのどこかで慶人君も活動しているはずだ。
「静香なら、新入生と間違われて誘われそうよ。」
「えぇ〜。」
それはないよと言った端から、サークルの看板を掲げて歩く人と目が合った。
なんか、指をさしてこちらに歩いてくる…。
ほらねと面白そうに笑う一華ちゃんを引っ張って、話しかけられる前に道を曲がった。
「あっ、静香ちゃん! 一華ちゃんも!」
その先で、同じように看板を持った人と一緒にいた慶人君と出くわした。慶人君は保育園の先生が着ているような、かわいいキャラもののエプロンを着ていた。一華ちゃんはそれを見て、挨拶より先に大笑いしている。
「ちょ、慶人君! 何着てるの〜!?」
「似合う?」
「似合う似合う〜!」
……気まずい。
普通にすればいいとはわかっているのだけれど、告白を断っているけれど、まだ好きだと言ってくれる人相手に、どうすればいいのか。
付き合わないと決めたのに、接したらときめいてしまう自分も嫌だ。
一華ちゃんの影で息を潜めるが、慶人君にはやはり通用しなくて、
「おはよう静香ちゃん。 これ、どうかな?」
似合うでしょと、ニッと笑う慶人君。私はこくんと頷き返すので、精一杯だった。