背中を丸めてベンチに腰かける、情けない男の背中をバシッと叩く。
俺は牧瀬とは長い付き合いだが、慶人とも仲良くしている以上、どちらかに肩入れするつもりはない。ただ、みんなにとっていい感じで収まればいいと願うばかりだ。
「まっ! 慶人に取られたくなかったら、急いだ方がいいぞ。 アイツ、紳士そうに見えて、意外と手ぇ早いみたいだし。」
「どういう意味だ。」
……あ、やべ。
笑いで場を和ませようとしただけなのに、それが余計な一言だったと今気づく。
牧瀬は普段感情を露わにすることはない。何をされても気にしないし、喜びもしないが怒りもしない。だけど過去、一度だけ牧瀬を怒らせてしまったことがあったことを思い出した。中学の頃だっただろうか。あの時は、牧瀬が大事に大事にしていたグローブをふざける中で踏んでしまって、気づいた時には視界は天井を映していた。牧瀬なりの配慮で、体操マットに投げ飛ばされていたのだ。
立ち上がった牧瀬が、ズンズン距離を詰めてくる。
今、あの時と同じように投げ飛ばされたら、もうただでは済まない。
胸ぐらを掴もうと手が伸びてきたのを見て観念する。
「ぜ、全部話します…!!」
花江さん、申し訳ないっ…!!
幸いまだ、花江さんにはバレンタインのお返しを渡せていない。今度、店のお菓子に加え、有名店のお菓子も添えてお詫びに行こう。
花江さん、頑張ってくださいっす…!

