最初は情でも芽生えてくれたら…なんて言ってたのに、いざそうなったら、情以上のものがほしいだなんて。野球以外のことに無欲だった牧瀬の変わりように、ふっと笑みがこぼれる。
「情じゃないちゃんとしたものが欲しかったら、まず自分からちゃんと好きって言うことだな。」
「…ハードルが高い。」
「俺にしたら、旅行の方がハードル高ぇよ…。」
この男の基準はよくわからない。
いつの間にか付き合ってる?し、同棲してるし。そんなことを提案する勇気はあるくせに、肝心なことに勇気は出せないなんて。
「牧瀬はさ、どうしたいの?」
「………」
「相手の気持ちを大切にするのもいいけどさ、別に自分の気持ちも大切にしてやってもいいんじゃない?」
牧瀬は黙ったまま、何か考えているようだった。
一体牧瀬が欲しいのは、押しの一言なのだろうか。
諦めの一言なのだろうか。

