花江さんは他の人のことが好きで、でもその人を忘れなくちゃいけない状況に、牧瀬がつけ込んで。だけど二人は順調だったはずだ。ちょいちょい相談は受けていたから、知っている。それがおかしくなり始めたのは去年の冬あたり……
ハッとあることに思い当たる。それは去年、4人で遊園地に行った時のことだ。
あの時、既に花江さんも慶人も家が隣だって知っていた?
そうとは知らず、花江さんに偉そうなこと言わなかったか俺!?
「健って、コーヒー苦手だったよね?」
「あ、お、お構いなく…。」
終始笑顔の慶人の裏に、黒い何かが見えた。
この壁の向こうに、好きな奴が違う男と住んでるとか、酷過ぎる…!!
「………慶人。」
「ん〜?」
「なんか、ごめん。」
慶人はくくくと肩を震わせて笑う。
「どうして健が謝るの?」
「だって俺、お前のっ……」
「凄いよね。 偶然って重なるものなんだって、今回思い知ったよ。」
俺は、慶人の想い人が花江さんだと知るより前に、慶人に聞いたことがあった。モテるのに、告白されるのに、なぜ誰とも付き合わないのかと。その時、なかなか忘れられない人がいるんだと言っていた。それが花江さんとも知らずに応援して。
一方で、牧瀬が花江さんと上手くいくように応援していた。どうせ広い構内だから会うこともないだろうと、花江さんを構内で見かけたら、それとなく守ってほしいだなんて依頼まで安易に引き受けて。
「別に責めるつもりで言ったんじゃないから。」
こちらこそごめんと謝る慶人には頭が上がらない。どれだけ人が良すぎるんだ。
「まあ、ちょっとでも悪いと思っているなら、相談に乗ってくれたら嬉しいけどなぁ。」
それくらいお安い御用だと身を乗り出す。後で後悔するとも知らずに。
「何だ!? 何でも言ってくれよ!」
そう?と嬉しそうな慶人は、嬉しそうにじゃあ…と切り出した。
「静香ちゃん達、ちゃんと付き合ってないみたいだから、その前にどうにかしたいんだよね。」

