「珍しいな。 慶人が家なんて。」

「そういえば、来たことなかったっけ?」

「だって慶人、あんまりプライベートに突っ込まれるの、嫌がるじゃん。」



慶人はびっくりしたようにパチパチと瞬きをした後、ハハッと声に出して笑った。



「な、なんだよ…。」

「だから僕は、健のことが好きなんだよ。」

「男に好かれても嬉しくね〜…。」



平気で好きとかさらっと言えてしまう慶人は天然人たらしだ。ルックスもいいから、言い寄る女子は上にも下にも同級生にも多いというのに、まさか高校生の頃から片想いしている人がいるとは。それも、俺と腐れ縁の牧瀬と同じ相手とは。

牧瀬は小・中・高とずっと同じだった。部活も同じだったから自然と一緒にいる機会が多く、無口な牧瀬の通訳として知られる仲だった。
牧瀬は真っ直ぐな奴で、ずっと野球一筋でいた。それが変わったのは、部活の引退を控えた最後の夏だった。よく電車で女の子と一緒にいるなと思ったら、卒業間近になると女の人が喜ぶプレゼントは何か、相談に来たのだ。まさかと思ったら、そのまさかだった。大学入学目前。同じ大学に花江さんが通うから、花江さんを見ていてほしいと、更に相談を受けたものだ。
これは、慶人には言っていない。



「ここだよ。」

「へ〜。 いいとこじゃん。」



慶人はそうでもないよ、と呟いた後、にっこり笑って言った。



「隣、牧瀬君と静香ちゃんの家だし。」

「………え。」



あがって〜と、衝撃的な一言をさらりと流してしまう慶人を追いかける。



「え!? はっ!? マジで!?」



一緒に住んでいるのは知っていた。だって牧瀬が嬉しそうに、照れながらそう言っていたから。けれど、家が隣だなんて、聞いてない。