「ブレザーがないと寒くないですか?」
ここだけは解せなかった。
今は初春だ。
まだまだ寒いに決まっている。
それにもかかわらずブレザーが要らないとはどういう了見か。
昨日のウェザーニュースでも今日から暖かくなるなんて一言も言ってなかった。
文句を重ねようとした瞬間、肩に暖かいものを感じた。
豹牙さんの香水の匂いがふわりと辺りに広がる。
「っ、え」
「これ着とけ。丸っきり制服よりは目立たないだろ」
「ありがとう、ございます」
咄嗟のことだったので言葉に詰まる。
肩に掛けられたのは、カジュアルな濃紺色のオーバーコートだった。
春仕様なのか、普通のものよりも生地がやや薄くて軽い。
そのことに感心している間に、豹牙さんは行くぞ、と言って玄関へと向かっていた。
豹牙さんに連れてこられたのは、日比谷グループが経営する、大型のファッションビルだった。



