電車から降りて一緒に歩いていると恋愛ものを読むんですね? と質問され妹からもらったから暇つぶしに読んでると答えた。まさか目の前のその恋愛対象の女性がいるから勉強しているなんて答えられないし……。
遂にチャンスが来た……。彼女と俺の共通する趣味。
俺は心臓をバクバクさせながらも、さり気なさを装い、路上際に出されているアニメ映画の看板のことについて触れ、彼女の様子を見てみる。
うーん、脈ありに見えるが、顎に手をやり何か考えこんでいるようだ・
いくぞ……。言うんだ廣田蒼佑、男だろ? 誘え! 彼女にこの映画一緒に観に行かないかと。
俺もまた、勇気を振り絞るため自分の心を奮い立たせている最中に逢沢さんという邪魔者が入った。
無理やり腕を組まれ、離すように言うとあろうことか逢沢さんの口から俺と逢沢さんの仲が良くなることを彼女が応援していると言葉が出た。
──嘘。俺は彼女をチラッと見ると、急に早歩きになってひとりで先に飛び出していく。
俺は追いかけようとすると、逢沢さんが腕を離してくれない。前の方に向かってわざとらしく「ほらっ蒼佑先輩だから言ったじゃないですか~」と彼女に届くように大きな声で言った。
くそっ……彼女のことがわからなくなった……。
打ち上げ兼壮行会が始まっても、彼女は俺を避けてるのか反対側に座った。
なんだろう? アイツらやけに彼女に馴れ馴れしい。
同僚の連中が話しかけてそれに答える彼女を見て俺はすぐに無理をしていることを見てわかった。
なんでだろうな──。時間にすると僅か三十時間とちょっと、会話もこの目の前にいる逢沢さん程、言葉を交わした訳でもない……けどわかる。彼女は俺といる時はもっと素直な笑顔を見せてくれる。
トイレに行くフリをして席を立ちすぐに戻ると少し剣呑な雰囲気が彼女と他の二人の間に流れていた。
俺は我慢できず、声を掛けると物わかりのいい方の同僚が俺に彼女の席を移してやってくれと頼んで来た。
席を自分が座っている真向いに移動してもらい逢沢さんと三人で話すが、彼女に話を振ってもすぐにそれを奪って自分のものにしてしまい、碌に彼女の話が聞けなかった。



