直が茉耶に心配を落として、あくまで他人のふりをしたわたしにも丸ごと心配を投げてから、もう一度わたしとの視線を絡め取って、



“あとで迎えにいく”



と、また音もなく唇が動いて、伝えられた。




正真正銘わたしだけに向けられたやさしさに最低なわたしはうれしさが込み上げてきてしまって、



“はるやまえき”



と、ここから近い茉耶の家の最寄り駅の名前を空気に放った。



直のことをすきだとまっすぐに想う茉耶。それに対してただの幼なじみであるわたし。

ひとりじめしたいと思う醜い独占欲、もうずっと前から制御できないでいる。




……だからわたしは、わすれていたし、気がつかなかったの。



茉耶が一瞬、誰かと直を言い間違えたことも、きもちわるくなるだけでお酒は弱くないことも、直とわたしの絡まる視線に参加していたことも。