「え、ねえ、栞、あれあれ!あのひと!南雲直くん!目合っちゃった!」




わたしがこぼしてしまった声こそ聞こえずとも、わたしが気がつくということは、隣の恋する乙女も気がつくはず、で。



大学構内での偶然の出会いに心を弾ませて、きゃっきゃと表情をゆるめてわたしの肩をぱたぱた叩く茉耶が可愛くて仕方なかった。



だけど、可愛いからこそ、黒味がかった感情が彼女の背中を押すことを躊躇う。




全面ガラス張りでシェードカーテンが降りていないから外の様子がよく見えた。視界に取り入れた空の紺と、同じように染まる。




「ね、直くんのところ、話しかけにいってもいい!?」


「……うん、いっておいで。わたしここで待ってるね」