「あとは……花火、してないかも」
「花火か、今年は俺もしてない。今度する?」
解散する前に、わたしを家まで送るためのふたり並んで歩く時間。
律儀にマンションの前まで毎回送り届けてくれる葉月くん。
歩きながら、覗き込まれて疑問系のお誘い。見上げなきゃ届かない視線をすくいとる。
ゆるりと口角が上がってやさしく微笑むから、いまこの瞬間に、ノーを返す口のかたちを忘れる。
うん、と悩む間もなく頷けば、また次回の約束がプラスいち。
「また日にち決めようね」と手をひらり揺らがせ、わたしがガラス張りのオートロックをくぐり抜けるまで見届けてくれるから、2時間半も遅れてきたことなんてぜんぶ帳消しだ。
꙳.☽



