低温を綴じて、なおさないで




「しおり、」


「ん?」




名前を呼ばれて、唇が触れた。名前を呼ばれるのも、キスをするのも、直がいちばんだ。
どうかこれから、直がそうする女の子が、わたしだけであってほしい。




「……なんでもない、ごめん」


「……ね、なお」




なんでもない、と長いまつ毛を伏せたきみは今、何を考えてるの?


わたしのことだけ、考えていてほしいな。きみの瞳にわたしだけが映っていればいいのに。




「わたし、直にね、ずっと伝えたかったことがあるの。大切なこと」


「……俺も、ある」


「でもね、まだ伝えられないし、受け取れないから、すこしだけ待ってほしくて」


「……ん、わかった」