低温を綴じて、なおさないで




「栞は俺の、なんだよね。つーか、矢野葉月ってあんたかよ」


「あぁ、何? 俺のこと知ってんの?」


「地元同じらしいしずっと知ってたけど、あんただったのかって答え合わせした気分。ともかく、もう栞に関わんないでくれます?」




葉月くんから引き離すように、わたしを腕の中に閉じ込める。直らしくない強引さなのに、いやじゃない強さに安心する。もうずっと、この腕の中で溺れていたいんだよ。


直の言葉に葉月くんの顔が歪んで、唇が動く。




「おまえ、ただの幼なじみだろ?何様?」


「幼なじみですらない奴は黙れよ。行こう、栞」




直が葉月くんを睨むように一瞥して、わたしの手を取る。葉月くんを置き去りして、エントランスのオートロックの暗証番号を当然のように入力するきみ。知っているに決まってる。この4桁「0728」は直の誕生日なのだから。



直のマンションのオートロックの「0831」もわたしの誕生日だ。



お互いの誕生日を暗証番号にしているだなんて、どう考えたって、おかしい。だけどそれが心地良かったの。



最後、視界に入った月は、雲がかかってあたりを照らしてはいなかった。




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