低温を綴じて、なおさないで




強く固定されていた手首、もうすぐ触れそうだった唇、顔が離れて解放された。


降ってきた声は、わたしがいちばんよく知っているだいすきなひとのものなのに、低くて掠れていて、敵意と苛立ちと焦りが混ざったような人を寄せ付けないものだった。


わたしには絶対に向けられない、向けられたことのない声だ。




「ポッと出は引っ込んどいてくれます?」


「な、なお、──ん、」




ぐっと一瞬で直のほうへ顔を向けさせられて、唇を奪われた。わたしもそんなに鈍くない。押し付けられた一瞬の柔らかさは、葉月くんに対する牽制だ。


交わった視線に乗せられていたのが苛立ちのほかに“嫉妬”だと感じたのは、あまりにもわたしに都合がいい。けど、それ以外を読み取れない。