低温を綴じて、なおさないで





掴まれていないほうの手がわたしの顎に添えられて、俯いていた顔が上を向く。無理やり向かされるせいで、視界を支配する葉月くんにポジティブな感情なんて気持ちは抱けずに、ただ、怖かった。嫌だと思った。




「栞ちゃんかわいいし、俺にとって特別な子だから」




……ほら、またこの言葉だ。“かわいい”と“特別”。


好きって言葉を避けて、相手への責任からは逃げるのに女の子をその気にさせる悪魔のような言葉。あなたの無責任には引っかからないから。



取り繕われた甘い言葉を落としても無駄だ。はやく離してほしくて押し返そうとするけれど、力じゃ、敵わない。振り払おうとしても、掴んだまま離してくれない。



離れるどころか、造形だけは整った顔が近づいてくる。逸らそうとしても、顎にかかった手が許してはくれない。



……あぁ、彼が言っていることも間違いではないかもしれない。こんな状況になってしまうの、葉月くんの言うとおりわたしに隙があるからだ。前にキスされたのもそうだ。